マイア(リョウリバナナ)

Maiʻa (Musa × paradisiaca)

マイア(Musa × paradisiaca)

古代ポリネシア人によってハワイに持ち込まれた有用植物のひとつ。Musa acuminataMusa balbisianaの交配種で、インドネシアを中心に数千年前から栽培されているという。

日本語名 リョウリバナナ
ハワイ語名 maiʻa
英語名 banana
学名 Musa × paradisiaca
分類 バショウ科(Musaceae)バショウ属(Musa)
その他 ポリネシアン移入種(Polynesian introduction)

分布

P

原産地はインド、東南アジア、オーストラリア北部など。ハワイでは広く栽培されているほか、主要6島すべてで野生化している。標高920mまでの風が弱い湿った谷や森に生育する。

また、近年移入された『ブルーフィールズ(bluefields)』や『チャイニーズ(Chinese)』などの栽培品種が、昔のマイアの栽培地で野生化して生育していることもある。

バショウ属(Musa)

マイアが属するバショウ属(Musa)は約35種からなり、インド東部から東南アジア、さらにマレーシアからソロモン諸島、オーストラリア北部まで分布する。

Musaという属名の語源は、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの侍医だったアントニウス・ムーサ(Antonius Musa)に由来すると言われたり、あるいは、アラビア語でバナナを意味するmouzに由来すると言われたりするなど、諸説ある。

特徴

高さ2~10mの草本。全体的な姿としてはヤシの木に似ていて、木(木本)だと思われがちだが、実際には巨大な草(草本)である。つまり「バナナの木」と言うのは誤りで、巨大なセロリのようなものだと考えるほうが実態により近いらしい。幹のように見える部分は、葉の基部が鞘になって集まったもので、偽茎と呼ばれる。偽茎は長さ1〜6m、基部の直径は15〜40cm、色は様々。

葉は8~20枚あり、長さ100cm~400cm、幅30~80cmと大きい。葉柄は30~100cm。葉は風によって葉脈に沿ってちぎれやすい。そのため、風が強い場所では、たくさん切れ目が入った葉は鳥の羽根のような形になる。

花序は偽茎の先端から垂れ下がる場合が多く、長さ5~9cmの雌花を数個~20個つける【写真1】。雌花にはゼリー状の花蜜がある。

マイアの雌花
【写真1】マイアの雌花 | Photo by Forest & Kim Starr

雄花は長さ3~6cmで、赤色または紫色の苞の下にまとまって多数つける【写真2】。

マイアの雄花
【写真2】マイアの雄花 | Photo by Forest & Kim Starr

果実は長さ3~40cm、直径2~8cmで、まっすぐなものから大きく曲がっているものまで、形は様々。皮の色は黄色、緑色、赤色など。果肉は白色、淡い黄色、オレンジ色など。

通常、種子は作らない。種子がないので繁殖はできないが、枯れた個体の株元から生える新芽(吸芽)が次の株に成長する。ハワイ人は、この吸芽を子や子孫を意味するケイキ(keiki)と呼んだ。

3つのグループ

マイアは、古代ハワイ人によって広く栽培され、ヨーロッパ人がハワイに到達した18世紀後半には約70の変種があったと推測されている。現在では約20の変種が残っており、それらの多くは、マオリ、ポーポーウル、イホレナという3つのグループに分けられる。

マオリ maoli

名前がついてる変種が11ある。果実は長く大きく、先端が丸い。果肉は甘く、調理しても生でも食べられた。マオリ(maoli)には「在来の」や「本物の」などの意味がある。

ポーポーウル pōpōʻulu

名前がついてる変種が4つある。果実は短く、ずんぐりとしている。果肉はサーモンピンク色。生でも食べられたが、焼いて食べることが好まれた。ポーポー(pōpō)は球や丸い塊、ウル(ʻulu)はパンノキのこと。【写真3】

ポーポーウル
【写真3】ポーポーウル

イホレナ iholena

名前がついてる変種が3つある。ハイカーがハワイの山間で見つけられる野生のバナナの多くがこのイホレナである。果実は中型で果肉はサーモンピンク色。調理しても生でも食べられた。直訳すると「黄色い芯」という意味。

利用

主要な農作物だったわけではないが、昔のハワイ人は緊急時の食料として広く植えていたようである。果実は生でも食べられたが、多くは加熱調理して食べられた。また、風よけとして住居の脇に植えられることもあった。いくつかの変種の果実は薬になったほか、花蜜はビタミンが豊富な飲み物として赤子に与えられた。

昔のハワイ人は、マイアの幹(偽茎)に男性との類似性をみて、象徴化していたようである。そのためか、ほとんどのマイアは男性のみが食べることを許されていて、女性が食べることは禁止されていた。なお、このことを含めた多くの伝統的なカプ(kapu、禁忌)は、カメハメハ二世(Kamehameha II、1797–1824)によって廃止された。

宗教的な儀式では、奉納物としてマイアの果実が房ごと供えられた。祭壇の覆いには、主にレレ(lele)という変種の葉が使用された。

葉の繊維と表皮は、レイの材料に使用された。葉はまた、イム(imu)と呼ばれる地中のオーブンに被せられ、料理中の土埃よけとして利用された。偽茎は、イムのオーブンライナーとして利用されたほか、転がしてカヌーを陸上で運ぶのに利用された。

伝説

マイアはハワイ神話の四大神のうちの二柱、カーネ(Kāne)とカナロア(Kanaloa)によって植えられたとされていて、カナロアのキノ・ラウ*のひとつだと云われている。また別の伝説では、火山の女神ペレのきょうだいが、マイアをハワイに持ち込んだとされている。

*kino lau。神が動物や植物に変身した姿のこと。

縁起が悪い果物?

大切な食料であるいっぽうで、昔のハワイでは、マイアの夢をみたり、マイアを運ぶ男に出会うと縁起が悪いと考えられていたという。漁のためのカヌーでマイアを運ぶことも忌まれていた。そのため、古い歌にはマイアが出てくることがない。

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